人間交差点 の記事一覧
主人公:橘健吾(建築士)
-あらすじ-
橘健吾は、押しも押されもせぬ敏腕建築士である。
ある日、一大リゾート開発の設計に携わった彼は、マスコミ相手に記者会見を開く。
会見が終わり、どこかの記者が置き忘れて行った新聞を何気なく手にすると、そこには「和歌山で白骨死体発見」という見出しがあった。
過去の忌々しい記憶が鮮明に甦る。
その昔、橘は、テル子という女性と同棲していた。
仲睦まじく、二人とも、金はなくとも幸福な日々を送っていた。
そんな折、建築界の大家である鶴丸教授自ら、娘との縁談を橘に持ちかける。
御多分に漏れず、橘はテル子と教授の娘とを天秤にかけ、教授の娘との結婚を決意する。
やがてテル子が邪魔になり、殺害するに至った。
場所は和歌山の山中。
念入りに念入りに遺体を埋めた。
それが、今となって白骨死体が発見されたという。
慌てた橘は、殺害現場を確認するため、和歌山へと向かった。
和歌山駅でタクシーを捕まえると、なんと、そのタクシーの運転手は、テル子殺害当日に乗ったバスの元運転手であった。
偶然に偶然が重なり、この運転手をも殺害せしめるは必然となった。
感想
主人公:太地(陶芸職人)
絹江(陶芸職人)
ーあらすじー
陶芸の産地である、とある山村の貧しい家に生まれ育った太地は、県の工芸コンクール(作中では詳らかに書かれていないが、おそらくそれに准ずるもの)で賞を取る。
その作品と太地の純粋さに惹かれた地元の陶芸家が、弟子にしたいと申し出、太地は陶芸家の下で修行をすることになる。
陶芸家には、太地と二つ違いの、絹江という娘がいた。
太地と絹江は、いつからか意識し合う仲になっていた。
太地が青年になる頃、恩師である陶芸家が急死した。
娘の絹江と弟子の太地は、二人で陶芸を守って行くことを決意する。
それから数年後、太地の知らぬところで、絹江は自分たちの陶器を展示会に応募していた。
見事合格し、出展されることを太地に報告する絹江であったが、その時、太地の脳裏には、ある記憶が甦る。
感想
-鬼面山には鬼がいた……。男と女の鬼がいた。-
という始まりのフレーズに尽きます。
歌的リズムと対句で、がっちり掴まれる。
が、読後には、”男と女の”鬼、という部分がどうにも引っ掛かりました。
男と女の鬼、ときて、そのコマ絵と併せて考えると、どうしたって愛欲に塗れた男女のストーリーを想像してしまうわけです。
そういう心持ちで読み進めたので、若干拍子抜けの感があったのは否めません。
(別にエロい話じゃなくて残念とかそういう意味ではなく)
しかしそれにしても、人間交差点ではよくあるコマなのですが、刑務所や拘置所の看守が、囚人を名前(しかも姓でなく名のほう)で呼ぶことは、この昭和中期頃には当たり前にあることだったのだろうか。
それとも、そうまでして姓を書きたくないという矢島先生のお考えがあったのだろうか。
主人公:野崎洋平(少年院教官)
菊島あけみ(院生)
第3話目にしていきなり、人間交差点ファンの間では1~2を争うほど印象深い名作と言われている回です。
ーあらすじー
あけみは、幼い頃に父親を亡くし、その後はキャバレー勤めの母親と二人で暮らしていた。
数年後、あけみの母親がある男性と再婚することとなったのだが、こともあろうに、あけみはその男から乱暴されてしまった。
母親想いだったあけみは、そのことで母親を悲しませるのが嫌で、中学生の時に家出をしてしまった。
当然、未成年の家出娘を雇ってくれるような”まっとうな”職は無く、売春などをして生活をしていた。
そして、家出から二年後、ついにあけみは少年課の刑事に保護されてしまった。
少年院の中で、あけみは反抗的な態度をとり続けた。
根本的には頭がよく、冷静で、明るい娘だったあけみ。
それがなぜこうも反抗的なのか?
あけみの悲しい過去を知った野崎教官は、あけみを更正させるべく、文字通り体を張った説得・指導を続け、ついにあけみは更正したのである。
あけみは出所後、定期的に手紙を寄越していたが、ある日を境にパッタリと音信が途絶えた。
心配になった野崎教官は、あけみからの最後の手紙に記された住所を頼りに近況を伺いに出かける。
感想
まさに名作回。
この話はドラマにもアニメにもなっているので、「人間交差点」とは知らなくてもTV等で見たことがある人もいるかも知れません。
とにかく「これが人間交差点だ」という大テーゼを感じさせてくれる話です。
後半、ご都合主義的な描写が多く、突っ込みを入れたくもなるのですが、ラストシーンで綺麗に洗い流されます。
そのご都合主義的な場面については、作中で主人公自らが「話が出来すぎている…!」と憤慨しているコマがあるので、矢島先生も重々承知の上でのことだったのでしょう。
主人公:節ちゃん
ーあらすじー
節ちゃんは、青春時代に、当時通っていた夜間高校の教師と逢瀬を重ねていた。
工場で汗を流しながら働き、昼休みの合間を縫っては教師に逢いに行っていた。
戸惑いながらも、メリハリのある時間を過ごしていた。
しかし、それもそう長くは続かなかった。
教師には大人の恋人がいたのである。
すべてを悟った節ちゃんは、行く当てもなく町を出た。
着のみ着のままで辿り着いた、どこかの温泉街。
とある旅館の女将に誘われ、中居として働くこととなった。
十数年ののち…
一人の男性客がやってきた。
それは、節ちゃんの『過去』そのものである、あの男性教師であった。
節ちゃんは、「1万円で夜伽をする」と持ちかけ…
感想
兎にも角にも、この話に於いては男がダメすぎる。
いや、第一話の男も相当なもんですが、ああいうハッキリした明らかな悪より、今回のようなボヤけた悪のほうが始末に負えない。
第一に、恋人がいるのに教え子に手を出しちゃう。
この時点でもうダメ。
そして、十数年ぶりとはいえ、その相手のことをまったく覚えていない。
さらに、1万円で夜伽をするという話に乗っかってしまう。
なんだこの、だらしなさすぎる男は。
節ちゃんは、「忘れられているのなら、こっちも単なる客扱いして忘れてやるわ」的な思いで夜伽の話を持ちかけたのだ。
あまりに響かない男に対し、途中で崖から突き落としてやろうかという殺意が芽生えたか?と思わしきひとコマがありましたが、特に何もありませんでした。
最終的には「忘れることはできなかったけど、吹っ切ることは出来た」みたいな読み方であってますか?矢島先生!
ー 前書き ー
みなさんは、『人間交差点 (ヒューマンスクランブル)』という漫画(劇画)を御存知でしょうか?
この漫画は、少しカビ臭いような、それでいて日本が元気だった頃の背景と、そこで生まれる数々のヒューマンドラマを描いたものです。
日本が元気だった頃、と書きましたが、元気だったからこそ、元気でない人との対比は如実に表れています。
現在は格差社会だなんだと言われていますが、個人的には以前よりよっぽど平等だと思います。
有史以来、昭和中期頃までは、本当に封建的な社会でした。
昔は、格差があっても格差だと感じられない程、当たり前にそういう世の中だったのです。
それを漸く現在に至って「格差」だと騒げるようになったのではないかと。
『人間交差点』には、現在では或る種ご法度とされている職業蔑視・男尊女卑思想などが少なからず含まれています。
それらが苦手な方は、少しだけご注意ください。
しかし、読み終えた後、嫌悪感よりも温かい気持ちを抱くことのほうが多いのではないでしょうか。
それでは、第一話『ガラスの靴ははかない』からご紹介して行きます。
主人公:松沢良子(女囚)
ーあらすじー
松沢良子は、スナックで働いていた際に、常連客の木村という男と恋仲になり、同棲するに至った。
男は、同棲し始めて間もなく、勤めていた工場を辞めてしまった。
以後、男は定職に就くこともなく、良子の稼ぎのみで生活することとなった。
男は徐々に荒っぽくなって行き、預金通帳は奪われ、暴力すら振るわれる毎日に良子は耐え続けた。
思い起こせば、中学時代のある日を皮切りに、男たちの言いなりになって生きてきた。
でも、この人だけは違う。自分から好きになった人なんだ。
自分にそう言い聞かせ、耐え忍んできた
だが、それが爆発した。
男をメッタ刺しにして殺してしまい、刑務所に収監される良子。
だが、すでに良子の中には新しい命が芽生えていたのだった。
あれほど愛した男の間に出来た、待ち望んだ子供。
しかし、今となってはもう、憎しみの対象でしかない。
良子は、”殺すために産む” 決意をし、やがて出産を迎える…。
感想
一話目から、かなりダークでヘヴィな内容ですな。
しかし、今回の主人公の松沢良子もそうですが、この漫画家(弘兼憲史先生)の描く女性は、純和風で美しく、妖艶でもあります。
30年以上も前の作品ですが、今見ても美しい。
流行り廃りのない美しさを描けるのはすごいと思います。
恒久的な美人を描かせたら、漫画では江口寿史先生、劇画ならこの弘兼憲史先生がピカイチですね。私の中では。
っと、画の感想ばかりでもアレなので、ストーリーのほうにも目を向けましょう。
この話、一番印象に残るセリフは、最後の最後、あの一言でしょうなぁ。
どうしてこんな叙情的な締め方が出来るのか。
原作の矢島正雄先生も素晴らしい!
散々ダークな気分で読んでたのに、最後にはちゃんと「じ~ん」とさせてくれます。
極力ネタバレはしない方向で行きたいと思っておりますので、具体的にどういう場面でどういうセリフだったかは、敢えて記しません。
あしからず…。